嗚呼、やってしまった…。案内された席につくなり、俺は自分の失敗に気が付いた。
せっかくの憩いのひとときであるお昼時、よりにもよって「副流おもろ」がキツい店に入ってしまったのである。
「副流おもろ」は正確には「副流オモロない」と言い、みうらじゅん師が提唱した概念である(リリー・フランキー師との共著『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』扶桑社 2011年 p.50)。同書によれば「副流おもろ」とは<飲食店で近くの席の人が面白くない話をすることでの耳障り具合を、非喫煙者が喫煙者の吐き出す煙により健康被害を受ける「副流煙」とからめた造語>(p.52)である。
隣の席からは30代のあぶらぎったサラリーマンの声で、「マジョリティって言葉を知らなくて、魔女の何かと思った」とか「他人の握ったおにぎりを食べられるか、石原さとみが握ったものならどうか」というような話が大声で流れてくる。
聞きたくもないのに、さも面白いだろというふうにドヤ顏&大声でしゃべってるのを聞かされる苦痛。確実に実感する、健康被害。
見たくもないものを見ないで済むように神は人間に「まぶた」を与えたもうた。ならばなぜ、聞きたくもないものを聞かないで済むように「みみぶた」も授けてくださらなかったのか。神の不条理。
頼んだナン&チキンカレーを今か今かと待つ間にも、隣の席から吐き出される「副流おもろ」。
死ぬ。これ以上「副流おもろ」を聞かされたら俺は確実に死ぬ。そう思った瞬間に、インド人かパキスタン人かネパール人かは知らぬが異国の店員がナン&チキンカレーを運んできた。
無心。
ただ無心でナン&チキンカレーを早食いする。
願うは一刻も早く、この「副流おもろ」から逃れたいということ。
隣の席から矢継ぎ早に繰り出されるネバーエンディング「副流おもろ」に耐えるため、みうらじゅん師とリリー・フランキー師の対談を思い出す。
<L:(略)タバコを嫌いな人は、「副流煙が迷惑だ」みたいなことを言うけど、そんな迷惑を考えたら、ファミレスの隣で話しているくだらない話が耳に入るだけで、こっちだって相当迷惑してるんだって言いたいですよね。喫煙席と禁煙席じゃなくて、「面白くない話をするヤツ席」も作ってほしいですよ。店員に、「面白いですか?」って、まず聞いてほしいですよね(笑)。「面白くない人は、どうぞあちらです」って。
M:「副流おもろ」は困るよね、ほんと。でもさ、自分ではおもろいと思って会話してるヤツが、「面白くない話するヤツ席」に入れられると、かなり切ないね(笑)。>(上掲書 p.50。Lはリリー・フランキー師、Mはみうらじゅん師)
やった、あと一口でナン&カレーを食べ終わる!「副流おもろ」のきついこの店を出られるんだ!
そう思った瞬間、インド人かパキスタン人かネパール人か分からぬ店員が近くに来て俺に聞いた。
「ナンのおかわりサービス、要ル?」
け、結構です。
↓健康第一。