ネットばっかり見てると隣国について過剰に攻撃的なかたもおられるが、まあ基本的に世界中見まわしても隣国同士というのは仲が悪いものだ。とってもとっても仲がよろしい隣国同士はとっくの昔に一つの国になっている。
個人的に好き嫌いはあると思うが、たくさんの人々が暮らし、ダイナミックな歴史を持つ中国という国は、見ていると大変興味深い。
以前に中国の若いエリートのかたと話したことがある。
お酒も手伝って、「中国もまだまだ農村のほうは大変みたいですね」とこちらが言うと「中国のGDPは日本を抜きました」と胸を張る。「中国もGDPが世界第二位になったんだから、大国として立派なふるまいをしてほしい」とこちらがいうと「一人当たりのGDPではまだまだですから」とするりと逃げられる。
そこらへんのやりとりの巧みさは、やはり混沌の政治の歴史を持つだけあるなあと変に感心した。
その昔、天安門事件で世界中から中国が非難された際、イギリスからの抗議に対し中国政府はこう答えたという。
「アヘン戦争以来、わが国は貴国に人権をうんぬんされる覚えはない」
天安門事件はいただけないが、こうした外交的したたかさはわが国もちょこっとマネするとよいと思う。
あまり堅苦しい話しても仕方がない。あたりさわりなく表面的なプライベートトークでお茶を濁そうと思ったら面白かった。
ご結婚はされてるんですか、とぼくが聞くとエリート氏、少しばかり元気なく目をふせて言った。
「結婚、してます。ただちょっと問題が」
ほほう、問題とは?
「…私、中国の南のほうの出身です。妻は、北京生まれ」
なるほど。
「…主食がねえ、合わないんです。
私はコメを食べたい。妻は北のほうでしょ。主食が饅頭(まんとう)とか、小麦系なんですよね…。…どうしても、そこが、合わないんです…。その話、どうしても妻には言えない…。コメ、食べたいんですけどね…」
中国には四川料理、北京料理、広東料理、上海料理とさまざまな料理スタイルがあるのは知っていた。また、北京では商売上手の上海人を揶揄するのに「北京愛国、上海売国」と陰口をたたく、というのも読んだことがあった。
しかし、地域違いのカップルが、主食の違いで悩むとは想像もしなかった。
同じように、ヨーロッパのイタリア人とイギリス人の夫婦とかもパスタかパンかで争ったりするのであろうか。
相思相愛で結婚した夫婦で、主食の違いという言ってみれば小さな違いを乗り越えることさえ、難しいのだ。それが優秀なエリート氏であってもだ。
同国の夫婦間でさえ難しいのだから、日本と中国も文化や政治や経済の違いをそうそう簡単に乗り越えられるものでもない、そう思って気長に隣国関係をやっていかなければならない、ということなんでありましょうね。