夏の盛りの土曜日の夜、深夜0時から始まる医師会の当直に備え、超一流イタリア料理店サイゼリヤで一人夕食を摂っている。
深夜0時から仕事ということで、一人でやることもないし、かと言って酒を飲むわけにもいかない。仕事があるからだ。
土曜日の夜中に1人で酒を飲まずに過ごせる場所というのは意外になくて、しかも悪いことに炭水化物を控えている身なので、甘いものをつつきながらコーヒーを飲んで時間をつぶすというのもできれば避けたいのであった。
そうなるとファミレスというのは便利で、サイゼリヤで小エビのサラダをつつきながら若鶏のグリルでもゆっくり食べていれば時間もつぶれるかなという算段であった。
学生時代から二十数年経つが、やってることも行っている店も全然変わらず、ついでにサイゼリヤの値段もそんなに変わらないのは驚くばかりだ。
土曜日の夜10時半の店内は若者たちのグループがいくつも談笑していてとても賑やかだ。
彼ら彼女たちはたわいないジョークやうわさ話、悩みごと相談に恋バナと会話の華を咲かせている。楽しそうなおしゃべりはいつまでも終わることがない。
出稼ぎだろうか、東南アジアからの若者のグループもとても楽しそうに話し込んでいる。
その横では中国の男女がデート中。
僕の右横には中東っぽい若者が母国か友人かにメールしながら一人でめしを食っている。
日本中にあふれているありきたりのチェーン店。世界中にあふれているありきたりの若者と恋バナ、青春の悩み。
特別なことなんてない。特別なことなんていらない。
日本の地方都市のそれまた郊外のチェーン店は今夜も2時まで店を開けているらしい。
店にあふれる若者たちそれぞれがそれぞれにそれぞれの『アメリカン・グラフティ』な『サタデー・ナイト・フィーバー』を堪能している。
彼らの青春の部外者たるぼくは、トム・ウェイツのアルバムのことやビリー・ジョエルの『piano man』の歌い出しのことやエドワード・ホッパーの『夜更かしの人びと』という絵のことなんかをいろいろと思い出したりしながら、追加でミラノ風ドリアを頼もうかどうしようかと考えている。